日本の宇宙研究の歴史に触れられる国立天文台
世界初のブラックホールシャドウの撮影にも貢献
国立天文台は、国内では、岩手県奥州市水沢にある国立天文台水沢、長野県南佐久郡にある野辺山宇宙電波観測所などをはじめとした12施設、海外ではハワイ観測所、チリ観測所など6施設を有している。その中で最も歴史があるのが三鷹の本部だ。1888年に東京府麻布区飯倉に作られた東京天文台が、1924年に現在の場所に移転。1988年に、国立天文台と改組された。
「国立天文台は日本の天文学の中核を担う研究機関であり、人類の知の最先端を切り拓くことを使命としています。大学共同利用機関として、多くの研究者に天文観測・研究施設を提供しているほか、海外研究機関との共同プロジェクトにも多く参加しており、近年では、ブラックホールシャドウの撮影に初めて成功した『EHT(イベント・ホライズン・テレスコープ)プロジェクト』でも観測システムの構築や分析など重要な役割を果たしました。三鷹に移転した当時と違って、周囲が市街地となり観測に適した場所ではなくなりましたが、天文学を通して日本の近代化の歩みを知ることができる施設なので、多くの人に見学に来ていただきたいと思っています」と広報普及員の小池明夫氏。
入場無料で自由に見学可能な施設には、海外からの観光客も多く訪れることもあり、5ヶ国語対応のパンフレットが用意されている。スマートフォンやタブレットを使って、英語と日本語対応の音声ガイドと手話動画を視聴しながら、施設について詳しく知ることもできる。
大正・昭和期に作られた貴重な観測施設
広さ約26万平方メートルの敷地には、木々が生い茂っており、豊かな自然の中を散策しながら古い観測施設を見学することができる。代表的な施設をいくつか紹介していこう。
正門から近い第一赤道儀室は1921年に建設された施設で、三鷹本部に現存する建物の中で最も古い。太陽の黒点を観測するための施設で、1938年から1998年までの60年にわたり使用されてきた。
「望遠鏡はドイツのカール・ツァイス製で、おもりを利用した重錘時計駆動赤道儀という方式で太陽を自動追尾することができます。太陽の黒点は望遠鏡の末端の板に映し出され、それを鉛筆でなぞることで位置や形を記録します。現在は、土日などに、太陽観察会を開催しています」と小池氏。
天文台歴史館(旧大赤道儀室)は、1926年に建物が完成、1929年に望遠鏡が設置された。木製ドームの中には口径65センチメートルの巨大な屈折望遠鏡が収められている。当時としては日本最大口径の望遠鏡で、1998年まで星の位置の測定をはじめとした様々な観測に用いられてきた。現在は国立天文台の歴史を紹介するパネルが展示され、天文・天体観測の歴史を学べる施設となっている。
「アインシュタイン塔」の別名もある太陽塔望遠鏡は、1930年に完成した。太陽の重力により太陽光スペクトルがわずかに変化する現象を検出することを目的に作られており、塔の上部から入った光を半地下の暗室にあるプリズムで分光する仕組みになっている。天文学だけでなく物理学研究にも寄与した貴重な建物で、登録有形文化財にも指定されている。
現在、最先端の観測装置は国内外の観測条件の良い場所に設けられ、三鷹本部は研究や装置開発の拠点となっている。年に1回の特別公開イベントでは、最先端の研究について研究者から直接話を聞くことができる。また、観測データを立体映像で再現する「4D2Uドームシアター」を毎月3回公開するなど、天文学の魅力を広く伝える取り組みが行われている。
歴史的建造物を見学しながら、天文学の歴史、宇宙のロマンに触れることができる三鷹市の国立天文台本部。国内外の多くの人に足を運んでもらいたい施設だ。
国立天文台
東京都三鷹市大沢2-21-1 https://www.nao.ac.jp/見学時間:午前10時から午後5時(入場は午後4時30分まで)
*詳細は以下の見学案内ページをご参照ください。
https://www.nao.ac.jp/about-naoj/organization/facilities/mitaka/visit.html
見学申し込み:少人数の場合は不要。
*当日見学者受付(守衛所)にお立ち寄りください。
写真/田中駿伍(MAETTICO)