スマートフォンアプリ「ハイパー江戸博 明治銀座編」で時間旅行を楽しもう!

東京都と東京都歴史文化財団はテクノロジーを活用して「いつでも、どこでも、誰もが芸術文化を楽しめる環境」の実現を目指し、「TOKYOスマート・カルチャー・プロジェクト」を推進している。その一環として開発されたのが2022年にリリースされたスマートフォンアプリ「ハイパー江戸博」だ。ユーザーは、斬新な方法で江戸東京博物館(江戸博)の収蔵品を鑑賞することができ、バーチャル環境で昔の東京を体験することができる。アプリ第1弾の江戸両国編の舞台は、江戸時代(1603~1868年)の両国エリア。江戸博があり、相撲部屋が集まる街として有名な場所だ。
同館の学芸員、沓沢博行氏は、2023年にリリースされた第2弾に明治時代(1868~1912年)を選んだ理由として「社会や産業が劇的に変化した時代だったこと」を挙げる。
時代設定は日本近代史の始まりとされる明治時代。江戸時代が終わり、近代化の最前線にあった銀座が舞台だ。1872年に起きた「銀座大火」により銀座エリアは壊滅的な打撃を受け、これをきっかけに近代化が急ピッチで進められた。アプリには、こうした歴史上の重要な出来事も盛り込まれている。この火災のあと、明治政府は耐火性のある煉瓦造りの建物で銀座エリアの再建に取り掛かる。この都市計画は銀座の発展に絶大な影響を与え、海外からの訪問客にも市民にも愛される、独自性のある洗練されたエリアが形成された。
文明開化から現代の銀座四丁目交差点へ
アプリのメイン舞台は銀座四丁目。今では多くの人が銀座の中心部と考えているアイコン的な場所だ。アプリでは時間の経過とともに風景も変化していき、徐々に見覚えのある高級ショッピングエリアの姿が形づくられていく。道幅が広がり、有名な銀座四丁目交差点となっていく様子を見ることができる。
現在の街を見慣れた人は、このアプリを使うことで、いかに短時間で銀座が劇的な変化を遂げたかを知ることができる。そして、これから東京が変わっていく姿に想いを馳せる機会となるだろう。


明治銀座編では、銀座に住む二人の若者、アキラくんとハルちゃんと一緒に激動の時代を駆け抜ける。ユーザーは、明治時代という時間軸の中でアキラくんとハルちゃんの人生をなぞりながら、歴史的な出来事も疑似体験する。
第1弾同様、今回も江戸博の膨大な収蔵品を楽しむためのユニークな仕掛けが用意されており、ユーザーは街の中に隠された100点の所蔵品を探し出すことになる。時間軸に沿ったストーリー展開の中で、銀座の歴史を学びながら、街に少しずつ訪れる目覚ましい発展を体験していくのだ。

今回のバージョンを開発するなかでいちばん難しかった点を聞くと、「明治時代の銀座を正確に再現することでした」と沓沢氏。当時の銀座の写真は現存していたが、前回の「江戸両国編」よりも多くの資料を調べる必要があったという。
ユーザーが興味を持ちそうな明治の文化の一つとして沓沢氏が挙げたものに、急激に変化した食文化がある。例えば、カレーやあんパン、炭酸飲料のラムネといった日本独自の食べものが明治時代に誕生した。

体験型ミュージアムの新しい役割
このアプリの特筆すべきポイントは、ユーザー自身がストーリーの中に入り込んで歴史や文化を学べる点だ。博物館の役割は、もはやガラスケースに収蔵品を展示したり、美術品を壁に飾ったりするだけではない。芸術や歴史をより直接的に来館者が体験できるよう工夫することで、当時の暮らしがどのようなものであったかを深く理解できるよう発展しつつある。

江戸博では、縮尺模型やジオラマ、さらには実物大の道路のレプリカなどを活用して来館者が東京の歴史を立体的に鑑賞できるように努めている。一般的に他の博物館では収蔵品のデジタル化やオンラインのミュージアムツアーを実施しているところもあるが、江戸博はデジタル化した収蔵品を楽しんで鑑賞してもらうための、より斬新な手法を通じて、歴史の世界へと導いている。東京は、こうした体験型・没入型ミュージアムの最前線にいるのだ。
東京都江戸東京博物館
※2022年4月1日より2025年度(2025年4月~2026年3月)中(予定)まで、大規模改修工事のため全館休館。https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/
写真提供/江戸東京博物館
翻訳/スヴェンソン・華子