「世界の貧困層を救う」学生起業家の挑戦

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 「世界の貧困層をなくしたい」と、高校生で起業への一歩を踏み出した本嶋向日葵氏。今、日本の若者の起業家育成にも着目するようになったという、その理由にも迫ってみた。
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本嶋向日葵氏。革新的なアイデアやテクノロジーで社会を前進させる挑戦者を生み出す場 Tokyo Innovation Baseにて。

貧困地域の子どもの通学を可能にしたプロジェクト

 高校3年生のとき、本嶋氏は、フィリピン・マニラの貧困地域で自らのビジネスプラン「冷蔵庫プロジェクト」を開始し、翌年2023年8月にフィリピンで起業した。

 このビジネスは、貧困地域に暮らす子育て中の母親に仕入れ資金と冷蔵庫を貸与し、自宅玄関先で個人商店を営んでもらう。育児をしながら自宅で働き、収入を得ることによって、世帯所得の増加と生活の安定を図るプロジェクトである。

 最低賃金が月額約4万円のマニラでは、借金をしながら苦しい生活を強いられている貧困層の人々が多い。その中で、この個人商店の売上約2万円は大きな利益だ。開店から半年、店を営む母親から「子ども5人を全員学校に通わせることができました!」と、うれしい報告が届いた。家計に余裕がなく、子ども2人を1年間学校に通わせている間は3人を休ませ、翌年は逆にする、という形で勉強させていたからだ。

 「本当にうれしかったですし、一番欲しかった回答を得られたと感じました。さらに、自分のプロジェクトが人を救うことができるかもしれないという自信につながりました」と本嶋氏。冷蔵庫プロジェクトは、国連開発計画(UNDP)とシティ・ファウンデーション共催の若者に向けたSDGsビジネスコンテスト「ソーシャル・イノベーション・チャレンジ日本大会2022」のLNOB(誰一人取り残さない)賞を受賞している。

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約1坪の個人商店には、現地に合わせたマーケティングも取り入れ、近所の人の需要が高い冷たいドリンクや雑貨が並ぶ。Photo: courtesy of Motojima Himawari

日本の若者に起業家マインドを注ぎ込みたい

 「東京都の高校生起業家養成プログラム、起業スタートダッシュの第1期生になったことが起業家になれた理由です」と語る本嶋氏は、高校2年生までは社会問題にも起業にも興味がなかったという。母の故郷で、自身のルーツがあるフィリピンに8カ月間留学し、そこで貧困層の存在を知った。「生まれた国によって、なぜこんなにも差が出てしまうのか、と怒りを覚えました。社会問題に興味を持つようになり、それをビジネスで解決していきたいと思ったのです」。帰国後、起業スタートダッシュを受講した。

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「起業スタートダッシュでは、一流のコンサルタントがビジネス知識を基礎から教えてくれたので、自分のビジネスプランを明確化できました」と本嶋氏。

 2023年12月、Tokyo Innovation Baseで、小池都知事と起業スタートダッシュの受講生・卒業生による「知事と議論する会」が開催された。この席で「貧困層の母親に個人商店を営ませることは起業家を育てることとわかり、プロジェクトを進めていくうえでも女性起業家の育成に着目していきたい」と本嶋氏は発言している。

 さらに、高校生から「起業したいけど、何から始めればいいのかわからない」という声がよく届く本嶋氏は、日本の若者の起業家育成にも注力したいという気持ちが芽生えたと話す。今後はフランスへ留学し、世界最先端といわれる起業家教育システムなどを学び、日本の若者の起業家マインド育成や、世界の貧困地域で女性起業家を育てる教育パッケージを創造したい、と意気込む。

 現在、本嶋氏は冷蔵庫プロジェクトの2店舗目を準備中。店舗を増やしていき、約10店舗ごとにグループ化し、その中に卸しを置くというシステムを構築してフランチャイズ化することを目指している。7年後、1,000店舗の出店が目標だ。また、フィリピン以外のアジア各国、アフリカでの展開も視野に入れている。

 世界の貧困層を救う事業に挑戦し、拡大を目指している学生起業家の姿に、これからも目が離せない。

本嶋向日葵(もとじま・ひまわり)

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フィリピン生まれ、日本育ち。東京都立晴海総合高等学校在学中に東京都「起業スタートダッシュ」第1期生となり「冷蔵庫プロジェクト」を企画・運営開始。日本政策金融公庫主催「第10回高校生ビジネスプラン・グランプリ」グランプリ受賞。現在、東洋大学在学中。
取材・文/小野寺ふく実
写真/伊藤智美