デジタルで描く東京の未来|TMCトーク Vol.4
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東京都の成長戦略について、今日はお話をしたいと思います。今、東京都が直面している長期的に見て最も大きな課題は何かというと、感染症と気候危機の2つだと定義をしています。今年や3年後といった短期的な視点で見れば、もっとたくさんの種類の課題があるわけですけれど、50年、100年という長期的なスパンで見たとき、最大の脅威は何かというと「感染症」と「気候危機」だと考えています。
気候危機については、もうポイント・オブ・ノーリターンにかなり近づいているのではないかと色々なところでいわれています。今、このスライドで紹介しているのは、環境省および国が公式に予測した2100年の日本の天気予報です。気温でいうとだいたい43度から44度、そして台風の最大風速は90 mぐらいになる予測をしています。
こういう状況になると、成長以前に生存に対する脅威というぐらい、危機が高まっていると認識しています。そういった危機は東京に限らず、世界中が今、直面しているわけです。そういったなかで、我々はこの都市というものが果たす役割が非常に大きいのではないかと考えています。
1950年には世界の人口の約30%が都市に住み、そして現在、約55%の人が住んでいます。これが2050年には、約70%の人が都市に住むようになります。この都市のあり方の未来を変えるということが、非常に大きな役割だと思います。東京も含めた世界の都市が果たすべきこれからの役割は、まず気候危機の克服。格差や貧困など色々な問題がありますが、人間中心の快適な暮らしと、この両立をどうやって実現するのか、ここが問われていると考えています。
特にその中で「デジタルテクノロジー」と「グリーンへのテクノロジー」、この二つが非常に重要になると考えています。では現状、東京のデジタルやグリーンといった領域はどうか、ということについて少し話をします。
まず、色々なランキングの指標がありますが、現在、東京の都市力ランキングは、総じて高いんですよね。しかしながら、デジタル化への取組や、グリーンへの成長のための基盤を作る金融領域のランキングは非常に低いのです。つまり、逆に言えば、デジタルテクノロジーとグリーン、そしてそれを支えるファイナンスがうまくいけば、ますます評価の高い都市になるのではないかと考えています。
東京ベイeSGプロジェクト
そこでデジタル、グリーン、そしてファイナンスといったフラッグシップ的なプロジェクトとして、「東京ベイeSGプロジェクト」を少し紹介したいと思います。このプロジェクトは、東京湾から日本の未来を作る、そして世界の新しい都市の未来のプロトタイプを作っていこうという取組になります。
東京というのは、山間部があったり、島のエリアがあったり、平野のエリアがあったり色々なエリアがあります。そして実は、海の上に埋め立て地をたくさん作って発展してきた歴史の街でもあります。またこの臨海副都心といわれているエリアは、だいたいイタリアのベネチア本島と同じぐらいのサイズとなっています。
そしてさらに、海の方には新しい埋め立て地として約1000ヘクタールもの土地が、今作られようとしています。世界には様々な大きな都市があると思いますが、このように海の上に新しい島をどんどん作って巨大な土地を生み出すといったのは、なかなか他に例がないのではないかと思っています。この海の上に生まれてくる新しい人工の巨大な島、その土地をどのように使うかということが非常に重要です。
我々はここを是非、今までとは違った切り口で、「新しい都市って、こういうものではないか」というような、未来の都市のプロトタイピングの場所にしたいと考えています。
2020年の秋以降、非常にたくさんの有識者の方から色々な意見をいただき、そしてコンセプトを作ってまいりました。多くの方がおっしゃったのが、やはりテクノロジーを使って、最先端な便利さを追求する。それに加えて、生物多様性といった自然の豊かさも両立させること。こういった新しい姿が、未来都市のコンセプトではないかという提案を受けました。自然か便利さか、こういった対立ではなく、自然も便利も両方とも実現する持続可能な新しい都市像をここに作ろうという計画です。今、コンセプトのビデオが発表されたところですが、具体的には、四つほど柱を掲げて着手しています。
特にこの広大なエリアには、世界、日本だけでなく、世界の色々なグリーンに関するテクノロジーを持ったスタートアップや大企業の方に来ていただいて、都市実装できるような、そんな場所にしたいと考えています。その金融的な後押しとして、グリーンファイナンスも、これから積極的に東京都として取り組んでいくつもりです。
東京都のデジタル戦略
ここからは、「東京ベイeSGプロジェクト」などの大きな取組ではなく、デジタルに絞った話を少ししたいと思います。東京都では、この大きなエリアをスマートシティ、スマートエリアに作り変えていこうという取組を始めています。これまでも色々なテクノロジーを使って、東京という街は便利に快適に暮らせるようになりましたが、新たにデジタルテクノロジーを使って、より便利にしていくといった挑戦になります。
具体的には三つの柱がございます。1つ目は、東京都すべての領域を誰もがインターネットで自由に繋がるような、そんな環境にしようと思います。2つ目は、我々東京都が提供する行政サービスにデジタルテクノロジーの力が今あまり使われていないので、それを是非使っていこうという取組です。3番目は、我々のこの働き方そのものにデジタルテクノロジーの力を使っていこうという取組になります。この3つの柱を新型コロナウィルスの感染拡大の前に発表したのですが、新型コロナウィルスによって「むしろこれを加速していかないといけない」という状況になっています。
1つ目の「TOKYO Data Highway」について少し話をします。「TOKYO Data Highway」というのは、いつでも、誰でも、どこでも、そして東京は災害に運命づけられた街でもありますので、災害のような非常時にも、ちゃんとインターネットに繋がる街を作ろうという取組です。特に昨年の新型コロナウィルス以降は、学校という空間のインターネットの環境を良くしようと取り組んでまいりました。図書館や公園、博物館、劇場といった、もうありとあらゆる領域でインターネットをいつでも誰でも自由に使えるような環境を作っていこうと考えています。今回も東京2020大会のすべての会場で、観客全員が5GなどのモバイルネットワークやWi-Fiにちゃんと繋がるような準備をしておりました。
では、次の説明をします。2つ目の柱として、我々の提供している様々な行政サービスにデジタルテクノロジーも付け加えていこうと、そしてより良くしようという取組になります。教育、医療、交通、防災、こういった行政が提供しているサービスがたくさんございます。これらの行政サービスそのものに、デジタルテクノロジーが今あまり利用されてないんですよね。ですので、これらの行政サービスに、デジタルテクノロジーの力が加われば、その分より良いサービスを利用者に提供できますので、今、すべての(都庁の)部局において、デジタルテクノロジーに取り組んだ行政サービスを作っていこうという取組を進めています。
3つ目の柱は、我々職員の働き方そのものに、デジタルを使っていこうという取組です。昭和から平成へと年代が切り替わるときに、今ちょうどこの西新宿という場所に、東京都のオフィスは引っ越してまいりました。そして今度の令和の時代には、西新宿からデジタルの空間に引っ越しをしようというコンセプトで取り組んでいます。具体的には、職員が西新宿に来なくても、どこでも仕事ができる。そして東京都民の方が、この事務所に来なくても、デジタル空間ですべての申請や手続きができる。そういった「バーチャル都庁」を是非実現したいと思っています。
東京都の金融戦略
今までデジタルの話をしてきましたので、今度はグリーン、そしてそれを支えるファイナンスについて説明をしたいと思います。まず、ゴールの設定として我々は2050年までにCO2排出量をゼロというのをめざしています。
世界最大級の都市である東京の街を止めることなく、こういったゼロエミッションに作り変えるというのは非常に野心的で多大な投資を必要とします。だからこそ、金融の力が非常に重要になってきます。
特に今、世界ではサステナブル投資というのが非常に大きな流れになってきています。グリーンボンドは、東京都も発行してるわけですけれども、こちらも大幅に増える見通しになっています。
世界中の都市が成長だけではなく、持続可能性のために都市を作り変えていこうという取組を、金融も総動員してやっていこうというトレンドやグリーンファイナンスの領域が大きくなっている、原動力になっていると思います。
国際金融都市東京というのは、これまでも掲げてきた目標であります。今年の秋に、その構想を改訂する予定になっています。今までとの大きな最大の違いは、グリーンを前面に押し出した構想になることです。
それでは、最後にまとめをして終わりたいと思います。まず冒頭で「デジタルへの取組」、そして「グリーンへの取組」この2つが東京の今直面している最大の機会であるという話をしました。我々はデジタルテクノロジーを使って、より便利で快適な街にトランスフォーメーションしていかなければならない、と思っています。
そしてもう1つ、様々なグリーンのテクノロジーやサーキュラーエコノミーといった考え方を使ってゼロ・エミッションな街にトランスフォーメーションしないといけないと思っています。この2つが実現できれば、東京を持続可能な都市とへ進化させることができるのではと信じています。
デジタルテクノロジーで、「スマート東京を実現する。そしてグリーンファイナンスも総動員してゼロエミッションな街を作る」この2つは我々にとって、ムーンショットであると考えています。ムーンショットというのは、ご存知の通り、アメリカのケネディ元大統領が月に人類を送り込もうと、当時は「そんなことできるのか」といわれるような、野心的な目標でしたが、そういったものを総じてムーンショットと呼んでいます。人口1,400万人を抱えるこの巨大な都市東京を一切止めることなく、グリーン、そしてデジタルに作り変えるということは、極めて野心的で困難な目標だと思います。だからこそ、このムーンショットのような非常に野心的な取組になると思います。
幸い世界の色々な都市で新型コロナウィルスの後では、サステナブルリカバリーをやろうじゃないかという機運が今湧き上がっています。世界中のそういった都市も、きっとそれぞれの都市のムーンショットに取り組んでいるのだと思います。
東京2020大会の後も、世界の各都市の取組をしっかり情報共有しながら、皆で是非ともこのムーンショットを成功させて、サステナブルリカバリーな都市を作っていきたいと思います。