Commerce Connect Tokyo:
文化活動を通じてイタリアの夢とライフスタイルを売り込む

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 在日イタリア商工会議所(ICCJ)は、日本でのビジネスにどのような姿勢で臨んでいるのか。ICCJのファントーニ・ダヴィデ事務局長に話を聞いた。
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ICCJは半世紀以上にわたりイタリアと日本の関係を促進してきた。イタリアを代表するブランドも会員に名を連ねる。

-- あなたはICCJに10年以上も在籍していますね。

 ICCJはとても画一的な組織という印象で、私自身とは正反対だったので、ここで働くことになるとは思ってもいませんでした。2009年に参加をしたのは、長い間遠ざかっていたイタリア関連のコミュニティとの距離を縮めたいと思ったからです。当時のICCJは良い状態ではなかったので、イベント企画など自分の強みを生かして状況を好転させることに挑戦したいと考えました。それからすぐに新たな人材も雇用するようになり、収益も伸び始めました。

-- どうやってそれを実現したのですか?

 得意なことに集中し、自らを制限しなかったのです。イタリア語の名称自体が日本では強いブランドになりますが、商工会議所にはあまりに多くの障壁がありました。そのメンタリティを逆転させ、理事会や会員にもっと自由に行動するよう説得することが重要でした。ICCJの活動の中心は企業をサポートすることですが、完全にビジネス的な活動から、イタリアの夢やライフスタイルを売り込む文化的な活動へとシフトしました。「気に入ったものがあれば、やってみる」というのが私たちのやり方です。考えすぎず、自由に情熱を表現する。型にはまらず、自分たちらしく、大胆になることです。

-- ICCJと協働することで恩恵を受けた会員やクライアントを教えてください。

 すぐに思い浮かぶのは、枕が主力商品の寝具専門メーカーFabe(ファべ)です。欧州では大手ですが、日本では病院や介護施設などに販売していることしか知られていませんでした。そのため、ブランドアイデンティティがなかったのです。そこで数年前に私たちが支援に乗り出し、ファベのパートナーと緊密にコミュニケーションを取り合い、同社のウェブサイトを全面的にリニューアルし、ソーシャルメディアでのプレゼンスを大幅に高めました。また、イベントを企画し、バレーボールのアリアンツ・ミラノでプレーする石川祐希選手をブランドの顔に起用しました。このようにイメージを作り上げることで、同社は今、日本で軌道に乗り始めています。

-- ICCJと会員は、社会や環境の問題にどのように取り組んでいますか?

 私たちは10年以上前からダイバーシティとインクルージョンに注力し、推進してきました。トレンドだからではなく、私たちがその価値を認識しているからです。たとえば、男女平等を軸としたさまざまな取り組みも行っており、その一つが「ミモザデー」のプロジェクトです。イタリアでは、3月8日の国際女性デーに男性が女性にミモザを贈ることから、こう呼ばれるようになりました。このプロジェクトでは、日本にいる女性の社会的地位の向上を目指し、女性たちが自らの価値を信じることを奨励しています。2023年は、女性とサステナビリティをテーマにしました。エネルエックス・ジャパンや三菱電機などの企業から女性リーダーを講演者として招き、それぞれの取り組みについて語ってもらいました。2024年は、グリーンエネルギーをテーマにしたイベントも開催します。

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ICCJ(港区)は1972年設立。ダヴィデ氏は10年以上前から勤務している。

-- 東京がビジネスをする上で特別な場所である理由は何ですか?

 東京は大都市です。ここではどんなことも起こり得るし、だからこそ誰もが訪れたいと思うのです。東京でビジネスができれば、アジアのどの都市でもできます。品質と規律という点で、東京はよい出発地点になります。また、新型コロナウイルスのパンデミック以降、東京での働き方やビジネスのあり方はよい方向に変化しています。多様性と柔軟性が高まり、若い人たちにはやりたいことをするための猶予や自由が与えられています。

-- 東京でのビジネスを考えているイタリアのスタートアップ企業にはどんなアドバイスをしますか?

 日本や東京に来る前に、自分たちをよく見つめ、本当に準備ができているかどうかを考えなくてはなりません。そして、なぜ日本に行きたいのか、ということも。日本では資金、時間、エネルギーの面で大きな投資が必要です。流行っているからという理由だけで進出しても、長くは続かないでしょう。一方で、日本という国とその文化を心から愛し、並外れた努力する覚悟があるならば、日本は多くの可能性を秘めた場所です。また、日本に来たら、ここでの物事の在り方を尊重するべきです。すべてを疑問視するのではなく、流れに身を任せるのです。

-- 近年、東京で成功しているスタートアップを教えてください。

 イタリアのジュエリーブランド、NANIS(ナニス)です。以前は日本に商品を輸出していましたが、パンデミック下に思い切って東京に支店を出す決断をしました。日本では忍耐も資金も必要なので、最初は懐疑的な見方もありましたが、順調なようです。このブランドは、日本で成功するためには日本に身を置かなければならないことに気がついたのです。それから、ミラノを拠点とする独立系ゲーム開発スタジオ、Jyamma Games(ジャンマ・ゲームス)も日本進出を検討しています。東京ゲームショウでは、同社が開発する「エノトリア:ザ ラスト ソング」について、セガとの提携を発表しました。

-- 東京都は、日本においてイタリアの企業やスタートアップを支援するために何ができますか?  

 日本でビジネスを始めようとしている外国人の中に苦労している人たちがいることを、柔軟に理解してもらうことが大切です。彼らは常に情報を必要としています。完璧なものである必要はなく、理解しやすく、アクセスしやすいものであればいいのです。たとえばソーシャルメディアの活用なども一案です。また、イタリアと日本のスタートアップ同士が交流し、それぞれの国の状況を深く理解し合えるようなプラットフォームが必要ではないでしょうか。効果的な方法でコミュニケーションを活発にするような支援を望みます。

在日イタリア商工会議所

https://iccj.or.jp/ja/
取材・文/マシュー・ハノン
写真/ベン・クック
翻訳/前田雅子