注目の東京在住トレンドセッター4人に聞く、東京の魅力

 東京に息づく人々こそが、この巨大都市を動かすエネルギーの源泉だ。街の不協和音をシンフォニーへと昇華させる、注目すべき4人の声を紹介しよう。
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アレクサンドラ・ラター/舞台演出家

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 共同設立者/ディレクターとして英国のWhole Hog Theatre company(ホール・ホッグ・シアターカンパニー)を率いるアレクサンドラ・ラター氏は、しばしば日本のアニメ、マンガ、ビデオゲームを題材にした日英共同制作の演劇のプロデュースも手掛けている。あのスタジオジブリが『もののけ姫』の舞台化を初めて認めた演出家としても有名だ。

--いま、最も気になっていることは?

 Bunkamuraシアターコクーンでの公演『ロミオとジュリエット』(2023年1月〜2月)の演出を通じて、古典を新解釈して現代のオーディエンスに届けることへの情熱が、あらためて高まりました。その一方で、ビデオゲーム作品の舞台化にも情熱を注いでいます。個人的にはThe Chinese Room(ザ・チャイニーズ・ルーム)の制作した『Everybody's Gone to the Rapture -幸福な消失-』を楽しんでいます。そして、Light Garden Studio(ライト・ガーデン・スタジオ)という企業が開発した「Existent」という、これまで想像も及ばなかったほどのインタラクティブな環境を可能にした最新のソフトウェア・プラットフォームの話を耳にして、とても気になっています。

--将来的に舞台化を目指したい作品はありますか?

 日本で2021年に舞台化された、今敏監督の『東京ゴッドファーザーズ』を英国で新たに舞台化したいですね。それから、細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』にも興味があります。

--あなたにとって、東京を最もよく表している日本の映画やアニメ作品と言えば何でしょうか?

 新海誠監督の『言の葉の庭』です。物語の舞台は私が初めて東京で暮らした街の近所で、梅雨の季節。私が初めて日本の梅雨を経験したのがまさにその街でしたから、特別な思い入れがあります。舞台化を進めていたタイミングでコロナ禍が起きて延期になりましたが、すぐに公演のお知らせができると思います(その後、2023年8月~9月まで『Garden of Words』のタイトルでロンドン公演が行われ、日本でも同年11月に品川プリンスホテル ステラボールで公演された)。

--この世界をひとつのステージだとしたならば、あなたにとって最も印象深い東京らしい場面があれば教えてください。

 いくつもの、ささやかな情景が思い浮かびます。懐かしい焼き芋の屋台とか、土曜の夜になると下北沢の路上に現れる、マンガをドラマチックに朗読する人の姿だとか。

ステフィー・ハーナ/デジタルクリエイター、タレント

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 インターネットの世界では〈@cybersteffie〉の別名で知られるステフィー・ハーナ氏。テクノロジーとクリエイティビティとを繋ぐ懸け橋、と呼ぶべき存在だ。文学や映画におけるSFの中の一つのジャンルであるサイバーパンクの美学を貫き、ポートレートや映像作品によってその世界観を体現するほか、NFTで作品販売も行っている。

--いま、最も気になっていることは?

 AIツールです。「Stable Diffusion」とオープンAIの「Playground」に関心があります。無料ツールですが、法則性やトレンドを解析するのに役立ちますし、また自分の力だけではとても無理なことを実現するための手段にもなるのです。

--テック志向だとは思いますが、興味ある物事のなかで、最もアナログなものを教えてください。

 いわゆる"珍味"が大好きです。一口に日本料理と言っても幅広いのですが、ホルモン屋や創作居酒屋など、穴場的なお店を開拓するのが楽しみです。

--サイバーパンクといえば、ハイテクとローテクの融合です。東京にもダーティな一面と超クリーンでモダンな一面があると思いますが、それぞれお気に入りのスポットはありますか?

 ダーティな一面といえば、私にとっては古巣とも呼ぶべき歌舞伎町です。あの混沌とネオンの街。雨が降る日に歌舞伎町を歩けば、まさにサイバーパンクの世界を彷徨っているかのような気分になります。クリーンな東京といえば東京都庁とコクーンタワー。それから延々と果てしなく続く左右対称の舗道の景色。霧深い夜にはまるであの映画『ブレードランナー』の世界そのものです。

--渋谷の交差点が2053年にはどうなっているか、想像できますか?

 まばゆい星々のように輝くホログラフィック広告が賑やかな街のあちこちに溢れ、スマートフォンは時代遅れで、サイバー化された人々がアイウェアで拡張現実を見ながら足早に通り過ぎていく。景色に目を向ければそこにはホバータクシー(宙に浮いて移動するタクシー)や宅配ドローンに混じって、旧型車があたり一面を行き交っている。そんな景色が思い浮かびます。

テレンス・ホールデン/ポッドキャスト・プロデューサー、コネクター

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 ニューヨークのブルックリン出身のテレンス・ホールデン氏は、現在東京を拠点にポッドキャストのプロデューサー/番組ホストとして、東京に暮らす人々の声を拾い上げている。多彩な要素が混在しながら入り乱れる東京という街に焦点を当てたポッドキャスト「Tokyo Speaks」のエピソードが98本に達し、ホールデン氏は第2のポッドキャストチャンネルの制作に取り組んでいる。

--いま、最も気になっていることは?

 現在最も集中して取り組んでいるのは「Vending Machine Stories(ベンディング・マシーン・ストーリーズ)」という、物語仕立てのポッドキャストのシーズン1をとにかく完成させることです。ポッドキャストチャンネルからポッドキャスト制作サービスに業態を移行しつつある「Tokyo Speaks」にとって初となる制作プロジェクトです。

--日本におけるDEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクリュージョン)の分野での先駆的存在でもありますね。その分野での現在の取り組みについて教えてください。

 私自身が個人的に関わるプロジェクトのすべてにDEIの精神が込められています。ポッドキャストを通じて物語を共有するという試みは継続するつもりです。そうするなかで、より多様な視点があることを強調していきたいと考えています。

--どのようなときに、東京をホームタウンと感じますか?

 つきあいの長い人々や、私たちが支援してきた人々との関わりのなかで、東京という街を身近に感じます。顔が広いとよく言われますが、そんな印象もあるみたいですね。

--住んでみて初めて分かる東京の魅力とは何ですか?

 寿司や神社、それからアニメに代表されるポップカルチャー以上のものが、この東京にはあるということ。今よりもっと魅力的な街になるポテンシャルを、この東京は秘めています。

ジュリア・パケット/作家、ポッドキャスター、ウェルネス専門家

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 エルヴィス・プレスリーの大ファンの英国系日本人と、ジュリア・パケット氏は自らを称する。まさに、コスモポリタンとしての彼女を言い当てた自己紹介だろう。バイリンガルのポッドキャスト「The Lighthouse with Jupuckett」のホスト役も務めている。他言語を身につけることは新たな魂を得ることにも似ている、と彼女は言う。

--いま、最も気になっていることは?

 デジタルファッション(現実世界で着用するものではなく、ゲームやSNS、メタバースなどのバーチャル空間上で使用可能な衣服や靴、アクセサリー類などを指す)と、それからイギリスのファッション・デザイナー、フィービー・ファイロの新ブランドのことですね。

--好きな日本語は何ですか? また、翻訳では伝わりにくい、好きな英語があれば教えてください。

 私にとって「マジック(魔法)」はいつも特別な意味を持つ言葉です。でも、あらゆる言葉が大好きです。言葉は私たちの思考を、ひいてはこの現実を形作るものですから。「川明かり」(あたりが暗い中で、月光を受けた川の表面だけがほのかに明るく見えること)のような、ひとつの言葉で状況のすべてを言い表してしまう日本語の言葉は素晴らしいと思います。英語では、「intentional(インテンショナル=意図的な)」という言葉を好んで使いますが、ぴったり対応する日本語訳はまだ見つけられていません。

--身体と心の健康(ウェルネス)の専門家として、東京の人が改めるべきライフスタイルはありますか?

 誰かの内面に美しさを感じたなら、それを言葉にして伝えること、そして自分の在るべき居場所を常に忘れずにいること。それさえ忘れなければすべて自ずと解決します。今日を生きるあらゆる人々が習慣として取り入れるべきライフスタイルであり、マインドセットを整えるためのツールです。

--東京の秘密を教えてください!

 お年を召した日本人の方々と触れ合う時間は、まさにマジック(魔法)そのものです。彼女ら、彼らの存在こそが、東京の秘めたる魅力です。私たちが学ぶべきことはたくさんあります。

*本記事は、「Tokyo Weekender」(2023年4月18日公開)の提供記事です。

取材・文/ゾリア・ペトコスカ
翻訳/飯島英治