LGBTQの視点からみるD&I~東京の現状・課題・未来~:杉山文野|TMCトーク vol.12

 本記事は2021年9月3日に東京都メディアセンター(TMC) が実施したTMC トークでの杉山文野氏の講演を書き起こしたものです。
動画はこちら

 皆さん、こんにちは。杉山文野です。

 今日は、トランスジェンダーのいち当事者として、また社会活動に関わってきた者として、そういった体験を通して東京の現状と課題・未来についてお話をしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 まず自己紹介なんですけれども、東京の新宿で生まれ育って40年です。今は日本オリンピック委員会(JOC)の理事と東京レインボープライドの共同代表をやっています。フェンシングの元女子日本代表ということで、「お前そんな髭面で出てきて一体何言ってんだ」ってよく言われるんですけれども、一応生まれたときは、杉山家の次女として生まれてまいりました。(右の)写真の左から2番目ですね。

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 それでも幼小中高と女子校に通って、セーラー服を着てルーズソックスを履いて学校に通っていました。ただもうこの時期には自分の身体に対するすごく強い違和感があって、でも幼心にそういったことというのは、人には言っちゃいけないんだろうなと思って誰にも言えずに幼少期を過ごしました。

 この時期が一番しんどい時期でした。中学生から高校生にかけてですね。この時期は、体は順調に女の子として成長していく一方で、気持ちの上ではどんどんどんどん男性としての自我が強くなっていく。まさに引き裂かれるなんていう簡単な言葉ではすまされないような心理状況。自分だけが頭がおかしいんじゃないかと。こんなに頭がおかしいのは、この世に一人しかいないんじゃないかと根拠のない罪悪感で、自分を責め続けるような毎日でした。

 一番つらいのは、ロールモデルがいないということなんですね。いわゆるお手本になるような大人が目に見えない。子どものときっていうのは身近な、かっこいい大人に憧れて未来を描くものだと思うのです。例えばプロ野球選手になりたい、こういう人になりたいっていうのは、そういった大人が目に見えるからですよね。

 ただLGBTQであるということをオープンにしながら社会生活を送っている大人は、ほとんど目にすることができませんでした。それは今のこの時代の東京においても同じで、そういった当事者が可視化されていないということが未来を描くことができない、さらには、当事者の子どもたちが自己肯定感を持てない大きな原因の一つです。

 高校の途中に初めてカミングアウトをしたんですけれども、そのカミングアウトを友達に受け入れてもらうことができて、少しずつ自己肯定感を取り戻していきました。それでもこのまま女子高に進んで、最終学歴が女子大になっちゃったら生きづらいんじゃないかなと思って、やっていたフェンシングの推薦で早稲田大学という男女共学の大学に行くことになりました。でも今度、大学に入ってみたら、皆が就職活動を始めたんですけれども、履歴書は、男と女どっちに丸をしたらいいんだろうかと。制服があるようなところでは働けないし、とそんなことを考えていたらやっぱり自分がどうやって生きていっていいのかが全く想像つかなくて、悶々とした時期をずっと過ごしました。

 そんなときに、とある出会いがきっかけで本を出すことになりました。これは、いわゆる性同一性障害である自分のカミングアウト本という形で出しました。このときの想いとしてはそういった人たちが、皆が皆、夜の水商売をしている人だとか、テレビのバラエティに出てる人なんだ、ということではなくて、もっと皆の身近にいるような存在なんだよっていうことを伝えたくて書いた本だったんです。逆にこの本が出た後はどこに行っても、性同一性障害の人と、まるで珍しい人かのように扱われるようになりました。

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 いや、たぶん日本という国が多様な性に関しては不寛容で、もしかしたら海外に行けば、もう少し暮らしやすい場所があるんじゃないかなとそんな淡い期待を持ち、さらにこの性別のことから逃げたいと思って、今度は世界に旅に出ました。

 ただ世界に行ったら、今度は世界中でsheなのかheなのか、ミスターなのかミスなのか、マドモアゼルなのかアミーゴなのかと問われ続け、最終的に南極船に乗ったんですけれども南極船に乗ったときですら、男性と部屋をシェアするのか女性と部屋をシェアするのかで揉めまして。いや僕はこんな世界の果てに来てまでも、この自分の性別から逃げれないんだ。性別だけではなくて世界中どこに行っても自分自身から逃げられないんだな。そうであるならば、移動をして場所を変えるのではなく、今いる場所を生きやすく変えていく。そういったことが大事なんじゃないかと思ったのが、今こういった活動をしている原点でもあります。

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 そこから手術をしたり、一般企業に就職をしたりしながらですね、30歳のときに会社を辞めて、昼間はLGBTQの啓発活動、夜は飲食店の経営という二足のわらじとしてスタートしました。

 最近、話題になったのはですね、2年半前に子どもが生まれてパパになりました。「トランスジェンダーでパパってどういうことなの?」ってよく聞かれるんですが、真ん中に写っている今顔を隠してるのが僕のパートナーで、今からもう10年以上一緒にいるんですけれども、その隣に写ってる青い蝶ネクタイの彼が僕の友人で、彼はゲイなんですけれども、彼から精子提供を受ける形で彼女が体外受精で妊娠・出産しました。

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 今2人目の子どもも生まれてですね、幸せに生活している部分もあるんですが、ここで一つ大きな課題、法的な課題があります。

 トランスジェンダーの皆が皆手術をするわけではないんですけれども、日本の法律、2004年からですね。『性同一性障害特例法』というのができまして、ここにある5つの条件を満たすと戸籍上の性別変更ができるということで、現在までに約1万人の方が戸籍上の性別変更をされています。

 法律は、非常に厳しすぎると世界から非難を浴びているような条件なんですけれども、特に4番と5番が問題視されています。要はその戸籍上の性別の変更をしたければ手術をして生殖機能を取り除けということが定められていると。これは本当に野蛮な法律だということで、大きな問題だと感じています。

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 なので僕は、乳房切除はしてるんですけれども子宮と卵巣の摘出はしておりませんので、この条件に当てはまることができなく、(パスポートや保険証など)全ての書類上の表記はfemale(女性)となっています。

 毎日のように子どもにミルクをあげてオムツを替えて、保育園送り迎えしてと、彼女と一緒に暮らしていてもです。見た目は男女のカップルですが、法律上は女性同士になります。婚姻の平等が実現していない日本においては全く赤の他人のシングルマザーとその子どもたちと同居しているということで、本当に日本の社会からは家族として認められていないんですね。いざもし彼女や子どもに何かがあったとしても病院の面会すら断られてしまうかもしれない。同意書一つサインができない。そういった不安定な中で生活しているのが現状です。

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 日本でもやはり同性婚を求めて訴訟がおきました。2019年に全国の同性カップルが婚姻の平等を求めて訴訟を起こして、20213月初めてその判決が札幌地裁で出ました。そこで、法の下の平等を定めた憲法14条には違反すると判断を下したということは非常に画期的な一歩でした。ただ一方で13条と24条については憲法の違憲には当たらないということで、原告の請求を棄却した、ということがニュースになりました。

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 こういった課題を解決していくためにやっている活動の一つとして、東京レインボープライドという団体で、プライドパレードの運営をしています。

 なぜこういった活動するかというと、年に一度ぐらいは皆で集まって「ここにいますよ」ということをしっかりと可視化していかないと、いつまでたっても僕たちは日本の社会において、いない存在になってしまうからです。

 日本でこのプライドの活動が始まったのは1994年ですけれども、2012年には5000人だった参加者が、2019年には20万人を超えるような方々に参加いただけるようなイベントになりました。

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 残念ながら去年と今年はコロナの影響で、リアルなイベントはできなかったんですけれども、オンラインのトークイベントに切り替えたところ、昨年は45万人、今年は2日間で160万人の総視聴者数がありました。

 これだけ注目が集まるほど日本の社会というのはもう本当に大きく変わってきていると思います。その一方で一番変わらない課題は、法整備が進まないということだと思います。

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 これはOECD各国LGBTQの法整備ランキングですけれども、日本は35か国中34位というような数字です。G7においても、同性パートナーに対する法的保障が国レベルでないのは日本だけになります。本当に人権後進国と言われてしまっても仕方がないような状況だと思います。

 これは性的指向に関する世界の法制度のマップですけれども、赤っぽい地域はですね、そういった性的指向が「犯罪」として扱われてしまう可能性がある地域です。一方でこのブルーの地域はですね、そういったことにちゃんと法的保障がある国です。日本は、ここに薄い水色がついてるんですけれども、これはどういったことかというと制限付きの法整備があるというような状況なんです。

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 2018年に東京都でスタートした人権尊重条例は、いわゆるオリンピック憲章に合わせる形でLGBTQへの差別禁止を盛り込んでスタートしました。

 今年の6月の日本の国会では、差別禁止よりもっと容易いというか、「LGBT理解増進法」という法律の法案すら提出が見送られたというぐらい、国での法整備が進まない中で、東京都がしっかりとこの差別禁止ということを明記した上で条例を作ったというのは、非常に評価されるべきことだと感じています。

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 ただそういったことが進んでいる一方で、まだ東京都ではパートナーシップ制度というものがスタートしていません。これは今、全国の100を超える自治体でそういった制度がスタートして、都道府県単位でもやっている自治体があるんですが、まだ東京都ではそれがスタートしていない。これをしっかりとスタートさせるということが大事だと感じています。

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 いわゆる都営住宅の入居条件みたいなものだったり、東京都の職員の方たちの福利厚生というような問題もそこに含まれてきます。またパートナーシップ制度、パートナーの関係だけではなくて、私のように既に子育てをしているLGBTQの当事者もたくさんいますので、ファミリーシップ制度ということもしっかりと考えていかなければならないと思います。またこれはLGBTQに限らず、いわゆる男女平等という、ジェンダーの問題も含めて、一緒に取り組んでいく課題だと思っています。

 東京が変わればやはり日本が変わると思います。誰もが暮らしやすい東京都というのを考えていけば、やはり誰もが暮らしやすい日本になっていくと思います。ぜひ東京都には、しっかりとリーダーシップを持って、国会では進まなかったとしても、東京都が進めていくことによって誰もが暮らしやすい社会を実現していきたいと思っています。

杉山文野(すぎやま ふみの)

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 1981年東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。トランスジェンダー。早稲田大学大学院修了。2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、現地で様々な社会問題と向き合う。日本最大のLGBTQプライドパレードであるNPO法人東京レインボープライド共同代表理事や、日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定に関わる。 現在は2児の父として子育てにも奮闘中。
 20216月から公益社団法人 日本フェンシング協会理事、日本オリンピック委員会(JOC)理事に就任。

※記事中の文言は、実際の発言内容と必ずしも一致するものではございません。

※東京都では、2022年6月の令和4年第二回都議会定例会において「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例の一部を改正する条例」が可決され、同年11月より「東京都パートナーシップ宣誓制度」の運用を開始する予定です。(2022年7月4日更新)
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