日本の海を守れ! 「魚食」を支えるトップシェフ集団の活躍
豊かな海を守る「サステナブル・シーフード」
日本の漁業水産量は長らく減少傾向をたどっている。総漁獲量は30年前の3分の1にも届かず、1984年度の1282万トンをピークに、2019年度は約420万トンまで落ち込んだ。
フードジャーナリストと東京のトップシェフ約30名で構成される一般社団法人Chefs for the Blue代表理事・佐々木ひろこ氏が、日本の海が危機的状況にあることを知ったのは2016年のこと。友人のシェフに声をかけ、営業終了後の深夜に勉強会を開くようになった。
そして、2017年に「Chefs for the Blue」を結成。「100年経っても、豊かな海を」をミッションに掲げ、フードイベントやシンポジウム、自治体・企業とのコラボレーション事業などさまざまな啓発活動を展開し、資源や環境に配慮した「サステナブル・シーフード」の普及を目指している。
アメリカの海洋保全団体「The Ocean Foundation」が主催する国際会議において、サステナブル・シーフードに関するグローバルプロジェクトコンペティション「SeaWeb Co-Lab」の2018年最優秀プロジェクトに選ばれた。
Chefs for the Blueは、消費者に直接アプローチできる今までにない団体だと佐々木氏は言う。料理人は、生産者と消費者の架け橋としてメッセージを発信できる存在だからだ。
Chefs for the Blueのメンバーには、認証水産物の取り扱いが認められているレストランを経営するシェフもいる。「MSC(水産資源と環境に配慮した漁業で獲られた天然の水産物)」「ASC(環境と社会への影響を最小限にして育てられた養殖の水産物)」といった国際認証の魚を扱うことができるレストランだ。東京のトップシェフたちが提案するサステナブル・シーフードは注目を集め、認証水産物の広がりにも貢献している。
日本の漁業を変える70年ぶりの大改革
活動開始から約4年半、日本の海を取り巻く環境は大きく変化した。2018年末には70年ぶりに漁業法が改正。科学的根拠に基づいた新たな水産資源の管理など、水産改革もスタートした。こうした水産庁の体制だけでなく、社会全体も大きく変わったと佐々木氏は語る。
「資源管理やSDGsに対する意識などが高まり、いろいろなところに変化の糸口が見られます。さまざまな企業や地方自治体とコラボレーションする機会が増えましたし、最近は多くのメディアにも取り上げられるようになりました」
メディアや消費者の反応もさることながら、2021年9月には、京都のシェフたちによる「Chefs for the Blue 京都」が始動。佐々木氏たちの活動は、日本各地のシェフに影響を与えている。
海の恵みは料理人の手で守るもの
4本の海流があり、山・川がもたらすミネラルにあふれた日本の海。豊かな海に戻すために、佐々木氏はヨーロッパ諸国やアメリカ、オセアニアなど漁業管理の先進国をはじめとする海外のシェフとも連携しながら活動したいと考えている。なぜなら、海は世界とつながっているからだ。
そして、そこにはシェフ自身の力が欠かせないと佐々木氏は言う。
「海の恵みは料理人が守っていかなければならない文化であり、資源でもある。その認識を料理人自身がもち、地域の方々に担い手として期待してもらいたい。自分の地域の魚を料理人がしっかり見守り続けられるような社会をつくっていきたいと考えています」
海外に比べて古くから魚食文化が進んでいる日本。この洗練された食文化を継承していく東京のトップシェフたちの活動に期待が高まる。