世界を魅了するドレスに秘められた、トモ コイズミの美の原点
東京2020大会の開会式で国歌斉唱をしたMISIAさんの衣装を手がけたブランド、トモ コイズミのデザイナー、小泉智貴さん。彼がクリエイターとして追求するものとは?
インスタグラムでの発信がきっかけで世界的なスタイリストから声がかかり、2019年のニューヨークコレクションに参加して一躍脚光を浴びたデザイナーの小泉智貴さん。自らが立ち上げたトモ コイズミでつくり出すのは、プレタポルテ(既製服)ではなく一点ものの衣装。オーガンジーを使ったカラフルでボリュームのあるフリルが特徴だ。
--クリエーションの原点を教えてください。
「美しいものをつくって世の中に届けたい」......その一心ですね。ニューヨークコレクションに参加して以来、名だたる海外のブランドや国内の企業からコラボレーションや期間限定アイテムなどさまざまなオファーを受けました。そういった他社との協業では機能性やコストなど複雑になりがちな話も多くて。だからこそ、いまはシンプルに純粋な"美"に立ち返りたいと思っています。では、自分にとっての"美"はどんなものかというと、たとえば花や緑といった自然界の美。コンセプトや説明を必要としない、誰もが直感的に美しいと感じる色や形に惹かれます。
東京2020大会開会式のMISIAさんの衣装についても、多くの人が関心を寄せるオリンピックということもあり、わかりやすくてピュアな美しさを追求しました。純度の高い白をベースに、プリズムをイメージした色とりどりのフリルで構成したドレスです。自分が目指すのは、人々が理屈抜きで美しいと感じる服。わかりやすさは低俗とされることもありますが、多くの人に響くシンプルな表現を洗練された形で提示したいと考えています。
開会式の最中からひっきりなしに友人や知人から連絡があって、なかにはアメリカ版『ヴォーグ』のアナ・ウィンター編集長からのメールも。ひと目で自分の作品だと気付いてくれる人が多かったことや国内外からの反響の大きさに、目指してきたことは正しかったと嬉しくなりましたね。
--特徴的なオーガンジーのフリル使いはどのように生まれたのでしょうか?
ブランドを始めた頃は、ポートフォリオのためにいろいろな生地を購入していました。その中で、色の種類が多い、安価で購入しやすい、品質がよいなど、オリジナリティを出せる条件が揃っていた生地がオーガンジー。一歩間違うと安っぽい印象になりますし、フリルのテクニックを編み出すまでに時間がかかりましたが、独創的だといわれる色使いなど、自分の強みが生かせる素材です。
--拠点とされている東京は、デザイナーとしての小泉さんにとってどんな街ですか?
デザイナー目線では、素材の豊富さ、入手のしやすさが東京の良いところ。海外に行くたびにそれを実感します。日暮里の生地問屋街や神保町の古書店街が好きなのですが、そういった「行けば何かに出合える」という専門性の高いエリアが多いのも魅力。SNSが発達して便利になった一方、デジタルの世界には自分用にカスタマイズされた情報にしかアクセスできないという側面があります。これは、ものづくりをする人間にとって非常に危険なこと。生地や古本など、偶然に見つけたものからインスピレーションを受けることもしばしば。実体験から得られる想定外の出合いを大切にしています。
--ゲイであることをオープンにされていますが、ご自身のセクシュアリティと作品に関係性を感じますか?
セクシュアリティは自分を形成する大きな要素のひとつ。作品にも深く関わっています。たとえば、20代の頃に強く惹かれたクィア(異性愛に当てはまらない性的マイノリティを指す包括的な言葉)のカルチャーや、ニューヨークで開催されるファッションの祭典メットガラの2019年のテーマ「キャンプ」など、ただ美しいだけではなく、楽しさやユーモアがあって、誇張された表現。そういった自分の原点や好きなものの基盤が、自身のセクシュアリティと密接なところから生まれた文化の中に存在します。美を追求していますが、自分の作品もただ美しいだけではありません。大げさだったり、面白みがあったり。テーマに掲げずとも、自然とセクシュアリティが作品に出ますね。
--今後の展望を教えてください。
一点ものの衣装や"美"の追求など、表現したいものやコトは変わりませんが、コロナ禍で日本にずっといたので、来年あたりから海外でも活動できないかと準備中。きっと東京でのものづくりにもよい刺激になると思います。
小泉智貴(こいずみ・ともたか)
東京エディション虎ノ門
写真/榊水麗