「東大卒なのに」と言われた日本人ゲーマー、ときど。「東大卒だからこそ」世界で輝く

 北米で「格闘ゲーム5人の神」の1人として知られ、56万ドルを稼ぐ。だが世界基準に達するまでには、スランプと苦闘があった。
Photo: JOE BRADY/RED BULL CONTENT POOL

 スペックは一切不問、勝つことが是とされるeスポーツの世界で、ときど(本名・谷口一)は異色のゲーマーとして知られている。

 名門の麻布中学・高校(東京)から東京大学に進学したことで、時に「東大卒なのにプロのゲーマー」などと、どこかもったいないというニュアンスを込めて呼ばれるからだ。

 『スーパーマリオブラザーズ』が発売された1985年に生まれたときどは、9歳の時にいとことプレーしたことで、格闘ゲームにハマった。中学生になると地元以外のゲーセンにも通い詰め、大人たちに勝負を挑むようになる。

 と、ここまではそう珍しい話ではない。

 ときどが誰とも違うのは、2010年のプロデビュー以来、リスクを排除し負けないようにするために編み出した戦い方(「ときど式」と呼ばれた)の一切を、2013年に捨てたことにある。

 「格闘ゲームをなめていた」

 ときどは当時を、そう振り返る。勝てなくなっていった彼は、勝ちにこだわってきた自分をあえて全否定した。

 負けから学ぶ――。そうしていくうちに、敵だと思っていた他のゲーマーたちは、かけがえのないライバルだと気付いた。

 同時に彼らは、理想の戦い方や自分のテーマを追求し、あえてポテンシャルが低いキャラで挑むこともあると知った。血の通ったプレーこそがプロの仕事だと悟ったことで、ゲームと正面から向き合えるようになった。

「格闘ゲームの神」の1人

 「ダルシム(格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズのキャラ)で、オンラインで10勝できるかできないかみたいな楽しみ方をしてます」

 そう言えるようになった彼は、2017年に世界最大の格闘ゲーム大会「EVO」で優勝を勝ち取り、カプコンプロツアーの「カナダカップ」では2018年、2019年と連続優勝するなど、国際大会で好成績をたたき出した。

 キャラを愛し、ライバルは共に研鑽する仲間だと認めることで、再生と勝利への道が開けたのだ。

 ときどは北米では「格闘ゲーム5人の神」の1人として知られ、日本人ゲーマーとして2番目に多い56万ドル以上の生涯賞金を獲得している。その海外での知名度を裏付けるように、昨年には国際eスポーツ団体のプレーヤーで構成される委員会で唯一の日本人メンバーに抜擢された。

 対戦時にあまりのこわもてになることから、海外で「マーダーフェイス」とも呼ばれるときど。しかし普段の彼は柔らかな表情でよく話し、よく動く。

 定期的なゲーム配信を続ける傍ら2日に1度の筋トレは欠かさないし、空手教室にも通っている。心・技・体のバランスが取れた姿に、憧れる次世代も少なくない。

 筆者は何人もの10代の若者から「将来はゲーマーになりたい」という言葉を聞いてきた。なかには不登校になっている高校生もいた。

 「ライバルは世界中にいるし試合も海外でやるから、英語を勉強しておいたほうがいいって、ときどが言っていた」

 取材時に聞いた言葉を、何の気なしに伝えた。すると彼は、世界と闘うために勉強に励むようになったという。

 ときどの生き方は、確実に誰かをポジティブに導く力を持っている。「なのに」ではなく「だからこそ」を見せられる、唯一無二のリアルな存在なのだ。

「The Story of Tokido(ときどの物語)」として英語のeスポーツメディアも特集。theScore esports-YouTube

取材・文/朴順梨
※本記事は「ニューズウィーク日本版」(2021年8月10日/17日号)の提供記事です。