東京パラ開会式の出演者らが創り上げた、希望あふれるミュージックビデオ

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 東京2020パラリンピックで、選手の活躍とともに世界から注目を集めた開会式でのパフォーマンス。その出演者らが再集結し、一つの楽曲「FLY」とそのミュージックビデオを発表した。
「FLY」ミュージックビデオより。

パラリンピックのレガシーを未来へつなぐ

 2021年824日、東京・国立競技場で行われたパラリンピックの開会式。714人もの出演者の中心にいたのは、車いすに乗る一人の少女だった。

 公募の中から選ばれ主役を務めた、当時13歳の和合由依(わごうゆい)さん。先天性の羊膜索症候群、関節拘縮症による上肢下肢の機能障がいがある和合さんは「周囲の人々に感謝を伝えたい」との思いで出演。演出家・ウォーリー木下さんが手がけた演劇「片翼の小さな飛行機の物語」で、空を飛ぶことを夢見る主人公を見事に演じ切り、国内外から高い評価を得たことは記憶に新しい。

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パラリンピック開会式で「片翼の小さな飛行機の物語」の主人公を演じた和合由依さん。

 和合さんは出演後、反響の大きさに驚いたという。「みなさんの演技が合わさって素晴らしいパフォーマンスができました。感動だけではなく、多様性という自分たちが伝えたかったものを届けられたのではないかなと思います」

 その舞台で共演したのが、武藤将胤(まさたね)さんだ。全身の筋肉を徐々に動かせなくなる難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者であり、一般社団法人WITH ALS代表を務め、クリエイターとしてALSの課題解決や啓発をはじめとした幅広い活動を行っている。武藤さんは開会式についてこう語った。

 「僕が開会式で見たものは、誰もがおのおのの個性を引き立て合い、支え合いながら、垣根を越えて一つのエンターテインメントを創り上げ輝いている、とても美しい光景でした。このレガシーを未来にしっかりつないでいきたいと思いました」

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武藤将胤さんは「EYE VDJ MASA」の名義でアーティストとして活動、WITH ALS代表理事も務める。

ボーダーレスなエンタメを創造

 そこで新たなプロジェクトが立ち上げられた。「ボーダーレスなエンターテインメント」を目指し、オリジナル楽曲「FLY(フライ)」のミュージックビデオ(MV)をつくる、「FLY PROJECT(フライ プロジェクト)」だ。武藤さんが代表を務め、和合さん、木下さんら開会式のメンバーが再集結し、始動。開会式からちょうど1年が経った2022年8月24日、「FLY」のMVがユーチューブで公開された。クラウドファンディングで支援を募り、制作費を除いた額はALS治療薬の研究開発費用を集めるせりか基金などへ寄付するという。

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FLY PROJECTのメンバー。左から和合由依さん、内澤崇仁さん、ウォーリー木下さん、武藤将胤さん。

 曲の作詞は武藤さんが担当。作曲は、かねてより楽曲制作やライブ活動で武藤さんと親交があったロックバンド「androp(アンドロップ)」でボーカルとギターを務める内澤崇仁(たかひと)さんが手がけている。

「武藤さんの歌詞は気付きや勇気を与えてくれます」と内澤さん。「歌詞に込められたメッセージが聞き手に伝わるように意識し、悩みながらつくりました。音楽を通じて、一人でも多くの方に希望の光を伝えられたらうれしいです」

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andropの内澤崇仁さん。

 武藤さんは「パラリンピックの開会式の舞台はあくまでスタート」と認識している。「あの経験を胸に、これからも多様な仲間たちが未来に自分たちらしく、自由に羽ばたいていってほしいという願いを込めて書いたのが『FLY』という曲です」

視線入力で映像中の光をデザイン

 MVは、和合さんと武藤さんがダブル主演し、木下さんが演出を行った。和合さんは車いすを降りて、床をはったり、共演者に持ち上げられたりする難しい演技にも挑み、表現者として成長した姿を見せている。

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「FLY」MVで演技する和合さんと武藤さん。

 和合さんはMVでの自身の演技について、前の自分よりも上手くなっているようだと笑顔を見せた。「まさ(武藤)さんの歌詞も内澤さんのメロディーも最終的にはとても明るいもので、希望を表しているんじゃないかなと感じています。だから、希望を伝えられるMVになるように、思いを込めて演じました」

 また、ビジュアルのクリエイティブについても特筆したい。映像中、空中を浮遊する光が数多く出てくるが、これは武藤さんが目の動きでコンピューターを操作する「視線入力」によって、空に羽ばたく紙飛行機をモチーフにデザインした。「誰もが自由に何度でも空に飛ばせるものというイメージが歌詞のメッセージとシンクロしました」と武藤さんは説明する。

 演出家として、木下さんは「由依さんと武藤さんはこれからの日本の社会において、表現を変えていく2人です」と大きな期待を寄せる。「パラリンピックの開会式は僕にとっての人生の大きな分岐点でした。あの日に出会った方々とは、これからの演出家人生で、できるだけたくさんのものを、ともに生み出していきたいと考えています」

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演出家のウォーリー・木下さん。

 「FLY」が、多様性を力に変える、ボーダーレスな社会を目指すきっかけになることを願っているという武藤さん。「今後も多様な仲間を巻き込んでいきながら、新たな作品づくりに挑戦していきたい」と意気込む。

 このMVを見て、その音楽を聴くと、4人を中心としたエンターテインメントとクリエイティビティが、あらゆるボーダーとされるものを超えていく力を発揮していることがよくわかる。

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FLY」ミュージックビデオの出演者。
取材・文/一ノ瀬 伸  写真提供/FLY PROJECT