循環型経済をカタチにする、地域に根ざしたエラボの挑戦

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 台東区鳥越。蔵前駅にほど近い落ち着いたエリアには、ものづくりの工房やお洒落なコーヒースタンドが点在している。そんなユニークな地区で、日本ならではの循環型社会の実現を目指す独創的な試みが展開されている。
古木や植物を配したélabのエントランス。キッチンラボやリビングラボにも緑がたっぷり置かれている。Photo: courtesy of élab

 élab(エラボ)を運営するのは、地域に根ざしたサーキュラリティ(循環)の実現を目指す若手の専門家たち。店内は、循環型経済について学び、実践する、キッチンラボとリビングラボという二つのスペースからなる。

 循環型経済とは、3Rすなわちリデュース(ゴミの削減)、リユース(モノの再利用)、リサイクル(モノを資源化して再利用)を一歩進めた概念だ。たとえば、天然素材の新しい使い方を見つけ、耐久性を重視し、環境負荷を最小限に抑えることを初めから念頭において、モノ、スペース、システムをデザインすることにより、ゴミや不用品が生まれないようにする。

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おしぼりも、循環型経済の実践例の一つ。エラボが入居しているビル2階の洋品店「余白(yohaku)」から分けてもらった端切れを使っている。

 いまや世界中で循環型経済を実現するための取り組みが展開されているが、エラボは都内でも類を見ない先進的な試みと言っていいだろう。店に足を踏み入れると、まずキッチンラボがある。植物由来の原材料を使った料理を提供しながら、食をテーマに地域の循環性を考える場所だ。エラボのシェフたちが、Ome Farm(青梅市)とTHE HASUNE FARM(板橋区)から仕入れた完全無農薬野菜を使って、クリエイティブな料理を発案し、提供している。

 青柳陽子シェフは、利用者が食を通じて生産者とのつながりを実感し、自分も循環の一部であることに気づいてほしいと考えている。たとえば、野菜は、どんな部位も余すところなく調理に使う。大根の長い尻尾は、抵抗があるかもしれないが、他の部位と同じくらい味わい深いことがわかる。

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青柳陽子シェフによるコース料理は、循環型経済のおいしい実践例だ。Photo: courtesy of élab

 週末のディナーコースは、季節ごとにテーマがある。2022年春は「絹」をテーマに、エラボの2階にある「余白(yohaku)」とのコラボレーションで、衣食における循環の概念を表現した。さらにそれを深めたのが、夏のテーマ「解体」。食材がどのように土から生まれ、どのように土に還るかを考えさせるコースだ。メニュー表の左側には、スープ、サラダ、タコス、ミニサンドイッチ、メイン、シメのご飯、口直し、デザート、お茶またはコーヒーとコースの流れが書かれ、右側に種、花、葉、茎、枝、実、蕾、皮、根と、暗号のように漢字が並ぶ。自分の食べている料理が、食材のどの部分を使っているか考えてもらうための工夫だ。

 「植物のライフサイクルのどの段階が、コースのどの料理に含まれているか、(コース料理を体験する人に)感じてほしかったのです」と、青柳氏は語る。「正解も不正解もありません。ただ、解体という概念と、それが私たちの食や生活全般とどう関係しているか考える機会にしてほしかったのです。そこから、とても興味深い会話が(お客さんとの間で)生まれたのですよ」

 秋冬のコースのテーマは「土」だという。「土は、生活の多くの物事とつながっています。もちろん庭にもあるし、レストランにもある。器やエラボのカウンターにも使われている素材です。土は、とても多くの物事の出発点なのです」

 青柳氏は週末のコース料理だけでなく、平日の日替わりランチプレートも考案している。ある日のメニューは、焼きかぼちゃに柔らかいオクラとナス、そしてシャキシャキの水菜と数種類の葉野菜を使ったボリューム満点のサラダが登場した。ドレッシングの代わりに、大豆でできたフムスと、生姜風味のミョウガ、トマトと梅のペーストがアクセントになっている。

 このサラダには、とろけるように柔らかいコンニャクも使われている。一般に凝固剤として使われる水酸化カルシウムの代わりに、天然の灰汁を使った最近の実験の成果だ。

 「伝統的に、コンニャクは農家で使われた薪の灰を使って作られていましたが、薪の材料となる木に使われる農薬や、薪を燃やす時に混入する有害物質への懸念から、灰が使用されなくなっていたようです」と、エラボの創設者である大山貴子代表は説明する。

 「そこで、囲炉裏からとってきた灰を濾過して作った灰汁を使ってコンニャクを作る実験をしてみました。ランチタイムのタコスバーでトルティーヤを使うのですが、その原材料となるトウモロコシを茹でる時も、この灰水を使ってみたいと思っています。メキシコの伝統的な製法と同じです」

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キッチンで生分解性テイクアウト容器を見せる、エラボの大山貴子代表。

 そのタコスバーも青柳シェフの独創的なレシピが光る。たとえば、イタリア原産のブルズホーン型唐辛子には、オクラ、カラシナ、そして自家製ハリッサを合わせたトッピング。あるいは、バターナッツかぼちゃとメキシコ原産のエパソーテ(ハーブの一種)、そしてハラペーニョビネガーを使ったソース(枝豆、ニンニクとパクチー入り)を合わせたものもある。

 青柳氏が作るトルティーヤは、トウモロコシの粉だけでなくカカオ豆の皮も混ぜているのが特徴だ。カカオ豆の皮は、近所にあるチョコレート専門店、ダンデライオン・チョコレートから調達したもの。サンフランシスコ発祥の同店は、シングルオリジンのカカオ豆からチョコレートを作る世界でも数少ないチョコレートメーカーの一つだ。二つの店の協力関係は、循環型経済を体現するエラボの哲学に適うコラボレーションだ。

 大山氏は語る。「ダンデライオン・チョコレートから出るカカオ豆の皮を地域で利用できないか考えていたところ、トルティーヤや麹やカカオ味噌に使えるのではないかと思ったのです。「これまではゴミとして捨てられていたものから、まったく新しい食材を生み出すことができました」

 エラボでは、環境負荷を低減するための代替メニューも積極的に考案している。たとえば、アボカドの代わりに大豆を使ったワカモレや、アーモンド粉の代わりにきな粉を使ったケーキやクッキーなどだ。店内に入ってまず目にするガラスケースには、パティシエの森本桃世氏が考案した植物由来の素材を使ったお菓子がずらりと並ぶ。

東京の消費者に、エシカルで心温まる選択肢を

 「エラボは、"選ぶ"と"ラボ(実験室)"を組み合わせた造語です。ここに来た人たちに、ぜひ経験してほしいと思っていることです」と大山氏は語る。「社会の主流である消費主義の先に選択肢があることを示したいと思っています」

 エラボのもう一つの取り組みであるリビングラボは、その実践の場だ。ここには、エシカル企業や発酵の哲学などエラボの理念を扱った古書の販売スペースがあるほか、ミシンを貸し出すクリエイティブ・リペア・スタンドもある。来訪者はここで、自分のお気に入りの服を修理できる。ミミズコンポストや伝統的なご飯の炊き方などのワークショップも、ここで開催される。

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書籍を手にとったり、洋服を直したり、ワークショップの開催場所にもなるリビングラボ。Photo: courtesy of élab

 「私たちが目指すのは、オリジナル商品を作り、販売し、地元のカフェでポップアップイベントを開いて、食の領域で地域の循環を実現し続けることです。エラボを一つの事業以上のものにしたいです。地域全体の実験の場であり、リソースセンターであり続けたいと思っています」と大山氏は語る。

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左から、キッチンラボに立つ青柳陽子シェフ、大垣多恵コミュニティマネージャー、森本桃世パティシエ

 サステナビリティ・コンサルタントの大野桂子オレワ氏は語る。「より循環的な未来を創ると宣言する企業は増えていますが、大山さんが主宰するエラボがやっていることは、この領域ではスモールビジネスのほうが有利であることを示す格好の例かもしれません」

 「エラボは店というより、コミュニティセンターですよね。事業が、最初から地域のネットワークと相互依存する仕組みになっているからでしょう」と、大野氏は語る。「ここが居心地の良い場所に感じられるのは、その事業の身近さがあるからです。自分が食べるものがどこから来ていて、どこで終わるかが、より身近に感じられる。料理をする人や、商品を買う人との距離も近い。どんなにGDPが大きな国でも、食の安定や孤独やメンタルヘルスが最大の懸念の一つになっている時代に、ここで食事をすることは、より健康な暮らしや、よりハッピーな暮らしへの投資になるでしょう」

取材・文、写真/キンバリー・ヒューズ
翻訳/藤原朝子