楽しみを起点に、使わなくなったコスメの"色"で人やモノをつなぎ、新たな楽しみを創り出す

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東京都創業NETインタビュー
株式会社モーンガータ 田中 寿典 氏

雑貨に携わってきた姉と、化粧品の研究開発経験を活かした製品を開発して起業

 就職先に化粧品の研究開発職を選んだのは、誰かが経験したことのある道ではない方へ進みたいという天邪鬼な面があるからだったように思います。みんなが就職活動を始める中、大学院への進学を決めましたし、一般的な研究所ではなく、当時は男性が用いることも少なかった化粧品分野での研究職を選択。華やかなイメージのある分野で、外見を整えることに加え、内面からも美しさや自信を引き出すことに自分の知識を使いたい思いもありました。約7年開発に携わる中で専門的な知識や技術を網羅的に獲得したこともあり、次のステップに進みたいと考えるようになったのが起業のきっかけです。

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Photo:SminkAr

 一緒に会社を立ち上げた姉は、以前から雑貨関連の仕事をしてきました。アイシャドウの粉末を使って絵を描いたりカラフルなキャンドルを作っている様子を見ていて、コスメとしては使い道がなくなったものを色材として使う着想を得ました。一般化粧品ユーザーの86.3%は使いきれずにコスメを余らせ、そのうち約半数は罪悪感を感じながら廃棄をしています。また、化粧品を扱う企業でも製品化されずに廃棄されるものが大量にあるという背景があります。化粧品廃棄の問題を、楽しく使える製品で解消できたらと開発したのが「SminkArt キット」。皮膚に直接用いることができる化粧品の安全性は担保したまま、手持ちのコスメのニュアンスをそのまま活かした色材にしようとこだわりました。

東京都の開業支援をフル活用した起業準備

 研究開発職出身のため、起業を決めたときにはマーケティングやブランディングの知識はほぼありませんでした。プロである中小企業診断士に相談しながら準備を進めるべきだと考え、見つけたのがTOKYO創業ステーション。大まかに作成した事業計画書を持ち込んで相談し、助言をいただきながら修正を重ねていきました。これまで市場がなかった事業なので市場規模などに不安がありましたが、ターゲットとなるペルソナの設定方法などを具体的に教えていただけたのは、製品を考える際に役立ちました。また、廃棄される化粧品に関する課題をより磨き上げて解決方法を見出し、それを製品に落とし込んだ事業にすべきだと気付けたことも大きかったです。技術ではなく課題感を起点に事業展開することは、今も大切にしています。

 事業計画以外にも、融資相談、助成金制度、税理士や司法書士の方との相談など、起業に関する疑問はすべて創業ステーションでプロの方に相談し、解決していきました。また登記は、東京開業ワンストップセンターで開業に関する各種手続きのサポートを受けて終えることができました。東京都の開業支援をフル活用しての起業でしたね。

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Photo: iStock

起業間もなくコロナが流行......遠回りしながらも、描いていたBtoBビジネスが主軸に

 苦労したのは、開業後数か月で新型コロナウイルスが流行したことでした。言葉で説明するより、まずはたくさんの方に実際に製品を使った体験をしていただこうと考えていたのに、イベントが開催できない状況に。海外からの納品遅延にも悩まされました。

 対策として行ったのが、ECショップでの販売やクラウドファンディングへの挑戦です。SNSでも発信を続けるうちに、TVで取り上げられたのを機に一気に取材が増え、弊社の取り組み自体を知ってもらえるようになりました。当初の予定より少し遠回りにはなりましたが、今では企業からのお問合せもいただいており、目指していた主軸をBtoBにおいたビジネス展開ができています。

 たくさんの方に認知・信頼いただけるようになった結果、今では廃棄予定のものとはいえ各社のノウハウの詰まった化粧品を9社から有価物として買い取り、製品の材料としています。他にも、お声掛けくださった企業と共同でイベントを行い、使わなくなった化粧品を楽しんで活用できる体験を個人の方にも提供しています。

楽しみを起点に、コスメを消費していくプロダクトを作り続ける

 事業が軌道に乗ってきたので、今後はさらに本質的に廃棄コスメの課題を解消するための事業を展開していきます。例えば現在、化粧品を使った印刷用インキや油性ペンの開発を各社と共同で進めています。廃棄予定の化粧品を色材とするので同じ色を作ることは二度とできないのですが、毎回限定色が生まれる魅力があると感じてくださる方が増え、社会の価値観の推移を感じています。雑貨やアートに用いるだけではまだまだ使いきれない量のコスメが廃棄されているので、化粧品を色材として活用する汎用性のあるプロダクトを作っていきたいです。

 SDGsやサステナブルという言葉を耳にするようになり、私達の取り組みもそこに繋がるものではありますが、お客様にはコスメの色を活用する楽しみを一番に届けていくつもりです。楽しんで使うことが継続に繋がり、結果的に環境にもプラスになっていたという形が理想です。モーンガータとしても、最終的には廃棄コスメ0を目指すべきなのかもしれませんが、まずは今生み出された化粧品を有効活用していこうというスタンスです。

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起業を目指す方へのメッセージ

 新しいことを始めたい方は、やりたいことがまだ明確ではない段階でも創業ステーションなど起業支援を受けてみるのがよいと思います。話を聞いてもらいながら壁打ちするうちに、やりたいことが徐々に明確になってくると思います。

 私自身は元々やりたい方向に進んできましたが、決められた製品を作ることが多かった会社員時代と比べて、より楽しみながらやりたいことにチャレンジする事業ができているので起業してよかったですし、充足感を得られています。もちろん不安に思うこともありますが、人とは違う道を歩みたい私にとって起業は、やりたいことにアプローチできて豊かな日々を送れるきっかけとなりました。今思えば、一人で考えている間にもっと早く相談すればよかったと思います。起業を考えている方は、ぜひ一歩踏み出してみてください。

TOKYO創業ステーション

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東京都及び(公財)東京都中小企業振興公社が運営する起業を身近に感じるための創業支援拠点です。起業について知りたい人、起業家に会ってみたい人、起業に向けて動き出している人。まずは「TOKYO創業ステーション」「TOKYO創業ステーションTAMA」へ。
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株式会社モーンガータ 田中 寿典 氏

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東京大学大学院修了後、アルビオンに入社。約7年間、コスメの研究開発に従事する。2019年9月20日株式会社モーンガータを設立。使わなくなった化粧品を絵具に変えて活用できる「SminkArt キット」を開発し、販売や各種団体とのイベント企画などを行っている。
株式会社モーンガータ Webサイト
*本記事は、「東京都創業NET」の提供記事です。