Tokyo Embassy Talk:
歴史と文化を愛するモロッコ人外交官が実感した、快適な都市の条件

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 首都ラバトで生まれ育ったモロッコの外交官、オスマン・ベルバシール氏は東京での生活に際し、あらゆる点で細部にまで宿るこだわりと、それが生み出す暮らしやすさに大きな感銘を受けている。
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政治・広報担当のオスマン・ベルバシール参事官。東京都港区のモロッコ大使館前にて

--どのようなきっかけで東京に住み始めたのですか?

 外交官という仕事柄、海外赴赴任先を選ぶ際にさまざまな理由で私は東京が第一希望としていました。そして20229月から、駐日モロッコ大使館で政治・広報を担当する参事官として勤務しています。

 まず東京を選んだ理由の一つに、二国間の関係構築に携わる仕事ができる国に来たかったというのがありますね。東京に赴任する前は、主に国連と連携しながら多国間の関係構築に関わる仕事でしたが、着任してからはモロッコと日本という二国間の関係強化、改善のための仕事に集中できるようになりました。

 もう一つ、個人的な理由もあります。東京に来るのは初めてでしたが、多くのモロッコ人がそうであるように、幼い頃に日本と接点があったからです。私の世代は、学校の課外活動の選択肢といえば、サッカーもしくは空手や柔道といった日本の武道でした。この話をするとよく驚かれるのですが、モロッコでは実はサッカーより日本の武道を選ぶ人が多いんですよ。現在でもたくさんのモロッコの若者たちが日本文化との繋がりを持っていますね。今はマンガやアニメなど、より現代的な大衆文化を通して親しみを持っています。

--東京で暮らすようになって、他の都市や国とは明らかに違うと感じることはありますか?

 まず印象的なのは、日本人の細部へのこだわりです。一つ一つは些細なことかもしれませんが、たとえば、レストランのテーブルの下にバッグや持ち物を入れるカゴが置かれているなど、そういった配慮や工夫の積み重ねが、東京での暮らしをより快適で心地よいものにしているのではないかと思います。

 もう少し視野を広げると、東京という都市とそのインフラは非常に魅力的ですね。長年にわたり築き上げられ、発展してきたその都市機能は極めて優れていると思います。公共交通機関、ガスや電気などのライフライン、その他公共サービス全般が実に効率的に運営されています。つまり、生きていくうえで基盤となるものが整備されていて便利だからこそ、健康や家族など、より自分自身にとって身近なことに目を向けて生活できると思うのです。他の都市では、たとえば電車やバスの運行状況を気にかけないとならないといった具合に、日常の心配事が多いように思いますが、東京では気にする必要がないので、本当に生活しやすいですね。

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生活のあらゆる面の細部にまで行き届いた日本人の気配りと、計画的に整備されたインフラを併せ持つ東京へ赴任したことに満足しているというベルバシール参事官。

 もう一つ、東京という都市について特に素晴らしいと感じるのは、子どもが大切にされている点です。たとえば、上野にある東京国立博物館では、文化的にも歴史的にも深い理解を促す展示がありますが、子どもたちが芸術や文化の基礎知識を得られるよう工夫されていると思います。こうした次世代への継承から、子どもたちは(社会の中での)責任や理解を学び成長していくでしょう。他の多くの国も、このような取り組みを見習うべきだと思います。

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歴史が息づく東京国立博物館の展示を巡りながら、過去に思いを馳せるのがベルバシール参事官のお気に入りの休日の過ごし方だという。Photo: courtesy of 東京国立博物館

 それから、東京の人々の仕事に対する国民性も特筆すべき点ですね。物事をただ成し遂げるだけでなく、それがどのように行われたのかもちゃんと確認しますね。東京に来てから出会った人たちは、常に自らの仕事に誇りを持ち、高いレベルの仕事をこなしているように感じます。もちろん言葉の壁はあるのですが、こちらができる限り日本語を覚えて接してみると、人々は快く助けてくれるし、話をしてくれます。

<モロッコの魅力>

Q1. モロッコへ出かける人に、ぜひ体験してほしいことはありますか?

 モロッコの食や文化をじっくり味わいたいなら、フェスティバルに出かけてみてはいかがでしょうか。中でも、フェズという街で行われる祭典がおすすめです。神聖な音楽フェスティバルといったところですが、宗教的に厳格過ぎないのが魅力です。モロッコの芸術、文化、伝統が時代とともにどのように進化してきたかも、このようなお祭りには反映されているものです。

Q2. モロッコのおすすめの季節はいつですか?

 私は涼しい季節が好きなので、春と秋ですね。モロッコの夏は、東京の夏と同様に暑いですが、海岸線沿いを除けばかなり湿度は低いです。モロッコを訪れるなら、南下してサハラ砂漠を訪れるとしても、春と秋ならかなり過ごしやすいと思います。カイトサーフィンのようなウォータースポーツで有名な場所もあり、春と秋のほうが波も良いのでおすすめしたいですね。

オスマン・ベルバシール

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フランスのトゥールーズ第1キャピトル大学で大学院を修了後、2012年にモロッコ外務省に入省。2022年9月に駐日モロッコ王国大使館の政事・広報文化外交担当参事官として来日し、日本の機関やシンクタンク、学者との交流を通じてさまざまな課題に関するモロッコと日本の相互理解や対話を深める業務に従事。趣味は読書、歴史や日本の武術について学ぶこと。新宿御苑がお気に入り。
モロッコ王国大使館
https://morocco-emba.jp/ja
取材・文/ベン・クック
写真(人物)/アナ・ペテク
翻訳/上嶋ラムショウ里奈