廃材・端材をベンチに! 環境に配慮し、東京のストリートに新たな魅力を
コロナ禍だからこそ街中に憩いの空間を
池袋駅近くの大きな通りに、誰でも思い思いの過ごし方ができるベンチが置かれた空間が出現した。これは「ストリートファニチャーで"まちなかリビングのある日常"を拡げる」社会実験で、2021年10月16日から22年1月31日まで行われている。
ストリートファニチャーとは、道路や広場など屋外の公共空間に設置される家具などの総称。グリーン大通りエリアマネジメント協議会*や豊島区の株式会社nest、株式会社グリップセカンド、株式会社サンシャインシティ、株式会社良品計画は、池袋のグリーン大通り界隈でのマーケット定期開催やイベント時のストリートファニチャー設置など、豊島区の玄関口・池袋の価値を高める取り組みを行ってきた。
ところが、新型コロナウイルス感染症の影響でマーケットが開催できなくなり、人々がグリーン大通りを歩き楽しむ機会も減った。しかし、「ストリートファニチャーを使った過ごし方が地域の人に根付いてきている実感はあったので、取り組みを断つのではなく、ファニチャーを常設化させるため社会実験に至りました」とnestの宮田サラ氏は語る。
ファニチャーのデザインには同様の家具や公共空間のプロジェクト経験があり、建材の再利用にも精通した建築家・伊藤維氏を迎えた。検討を進める中で、再利用できる廃材、しかも池袋に関わりのある材料を使えないか、というアイデアが自然発生的に持ち上がり、「環境に配慮する」ファニチャーのデザインに繋がった。
ちょうどサンシャインシティ内にあるサンシャイン劇場の改修工事のタイミングだった。舞台に敷かれていたヒノキ板を譲り受け、これがメインの材料となった。さらに、良品計画を通じて、無印良品のまな板をつくる時に排出される、ヒノキの芯部分の角材や節のある板材も材料に加わった。
池袋を代表する劇場や、池袋に本社を置く企業から提供された廃材・端材でファニチャーをつくったことは、環境にやさしいだけでなく、「池袋に関わる履歴を持った木が使われることで、地元への愛着や、時間・意味の重なりによる豊かさも共有されていくと思います」と伊藤氏は言う。
* 主にグリーン大通り周辺の企業や商店街で構成されるエリアマネジメント団体。国家戦略特別区域法に規定する国家戦略道路占用事業によるエリアマネジメントに係る道路法の特例を取得
東京で独自に発展するウォーカブルなまちづくり
「人」を中心にデザインされ、居心地が良く、つい歩きたくなる街路は「ウォーカブルなストリート」と呼ばれ、すでに欧米を中心とした世界の都市で取り組まれている。ストリートのあり方を見直したことで、歩行者が増えて市民の満足度が向上したほか、沿道の店舗の売り上げが増加した事例もあるという。
海外経験も豊富な伊藤氏には、デザインを進める際、欧米で出会った、屋外空間を生き生きと使いこなす都市風景も頭の片隅にあった。一方で、国内にウォーカブルな通りをつくると、どこか日本的な、縁日のような空気感もおのずと重なっていくのが面白いという。
「海外の人から見たら、人によっては馴染みのある西洋的な要素と日本的な要素がハイブリッドされた風景に、東京のストリートの面白さを感じるかもしれません」
また、地元に縁のある木材が使われたことで、今回のストリートファニチャーはそこで今まで育まれてきた取り組み・日常生活の舞台となった。「東京」と大きく括るだけでなく、より小さな地域ごとの個性や時間の流れが、物として、人のふるまいとして、「風景」として現れることで、東京に内在する「多様性」もより表現され、さらなる魅力になっていくのではないかと伊藤氏は言う。
車中心の社会では、目的地に早く到着することが目的になりがちだ。しかし、人中心の空間が増えていくと、居心地の良い、新しい都市のあり方が見えてくるのではないか。東京が環境にやさしい、ウォーカブルな街の風景を築いていくことで、日本の独自性やその地域の個性が顕在化し、新しい都市の魅力がより世界に発信されていくだろう。