ニコライ・バーグマンがすすめる、花を通じた異文化コミュニケーション
花から始まるコミュニケーション
出身はデンマークのコペンハーゲン。1995年にデンマークから初めて日本に来たときは、見るものすべてが印象的だった、とニコライ・バーグマン氏は振り返る。
「神社やお寺、神前結婚式、骨董市といった伝統的な文化や建築物、工芸品に強く惹かれました。日本に来てまもない頃、表参道にあった着物屋さんによく通っていたのですが、そこで買い集めた古い帯をカットして花瓶に巻いたりしていました。この頃の体験は自分の作品づくりのDNAの一部になっていると感じています」
1998年からフラワーアーティストとして日本での活動を始めたバーグマン氏。2000年に発表したフラワーボックスは、いまやギフトの定番ともいえる人気商品だ。「僕は花を通してコミュニケーションを行うことをコンセプトにしています。綺麗な花ですね、の一言で終わるのではなく、そこから会話が生まれるようなアレンジを心掛けているのです」
花を通して日本文化を再発見
京都をはじめ、日本各地の寺社や古い街並みを巡るうちに、日本文化への興味はやがて安藤忠雄や隈研吾などコンテンポラリーな文化へと広がり、仕事を通じて様々な分野の人たちと出会うことになる。そんなバーグマン氏に大きな転機が訪れたのは2014年のことだった。
「福岡の太宰府天満宮で2014年から2018年までに3回、展示をさせてもらいました。普段は入ることのできない神聖な場所で行うフラワーインスタレーションですから、とても緊張しましたね。100人以上のスタッフとともに10日間、泊まり込みで準備をしました」
展示に対して協力的だった宮司が語った言葉を、バーグマン氏はいまでも覚えている──「私たちは文化を続けるために仕事をしているが、同じことをやっていては、文化は消えてしまう。だから常に新しいことに挑戦したいのです」と。
2018年には鳥居をピンクの布で巻きつけるという大胆なインスタレーションを敢行し、大成功を収めた。「これを皮切りに京都府の清水寺、茨城県の筑波山神社でもフラワーインスタレーションを行いました。日本文化を新しい視点から見てもらえたのではないかと思っています」
伝統とモダンが同居する東京の面白さ
長らく日本に暮らして思うのは、日本人の花に対する特別な感性だという。
「日本には歴史の中にも花があると感じます。古い絵の中にも自然を愛で、それを生活に取り入れている場面が多い。そして多くの日本人が季節の移り変わりをとても大事にしています。花見に対する執着とか、これはもう日本人が長年培ってきたプライドと言えるでしょう」
東京・南青山にフラッグシップストアを構えるバーグマン氏は、気が向くと東京の街を自転車で散策している。
「東京は小さい街の集合体のよう。青山から原宿、渋谷、銀座ではかなり街の雰囲気が変わるから、自分のムードに合わせて移動しています。海外から来た友達に東京を案内するときは、伝統が感じられる場所、モダンな場所、おいしい食事の3つをポイントに紹介しています。例えば明治神宮を訪れてそのまま原宿の竹下通りや渋谷に移動し、おいしいものを食べに行く、というコース。みんな大満足してくれますよ」
現在はパンデミックで思うように旅行できないが、世の中が落ち着いたら日本に来たいと思っている人はたくさんいるはず、とバーグマン氏は言う。「アジアの中でも日本は特別、と感じている外国人は少なくない。素晴らしい文化を持っている東京の街をもっと知ってもらいたいね」