災害時でもお風呂に入れる? 簡易浴槽装置でQOLの向上へ

Read in English
 自然災害の多い日本。被災地では、水やガス、電気などのライフラインだけではなく、入浴設備の確保も大きな課題の一つだ。お風呂は、身体を温めて清潔を保つと同時に、精神的な安定にも大きく貢献する。被災地で活躍が期待される、簡易浴槽装置とは。
iStock.com/ Prostock-Studio

コップ1杯の水があれば屋外でも入浴が可能に

 日本の社会経済活動の中心である東京。都市機能が高度に集積する一方、人口密度が高く、海面水位より低い地域に市街地が形成されるなど、自然災害に対するリスクは極めて高い。東京都では、2022年度に首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直すなど、防災対策を強化している。

 そんな中、水の確保が難しい災害現場で注目されているお風呂がある。それが、超微細な水の粒子で身体を包み込み、保温・入浴効果をもたらす株式会社EINS(アイン)のナノミストバスだ。

 アインが開発したナノミストバスは、100Vの電気と、約350mlの水があれば入浴が可能。3842℃の室温を保つことで発汗を促し、湯船に浸からなくても入浴後の爽快感を味わえる新しいお風呂だ。

 その中でも、「ナノミストバス・2WAYタイプ災害用」は、スペースを有効活用できる組み立て式。カーテンも取り付けており、人目を気にすることなく、着替えや入浴を安心して行うことができる。

20220118113927-a97d457aed84db1f92c0d9a7f0cf0e125f694941.jpg
手前が着替えスペース、奥が入浴スペース。女性でも安心して使用できる

阪神・淡路大震災を機に誕生したお風呂

 アインの木島信一氏は、1995年に阪神・淡路大震災を体験した被災者の一人。災害現場が混乱する中、水やガス、電気の復旧作業は優先順位が高く、簡易トイレも徐々に設置された。食料も次第に届いてきたが、人が生きる上で必須である入浴設備が整うのはずっと先だったという。さらに、節水型のシャワーやお風呂はあっても、ナノミストバスのように、一人コップ1杯分(約350ml)の水で入浴できるお風呂は、当時はなかった。

 その経験を活かし、2005年にアインは簡易浴槽装置ナノミストバスを開発。当初は介護用として開発されたが、2011年に東日本大震災が発生したことで、3台のナノミストバスを宮城県石巻市に届けることになった。

 阪神・淡路大震災、東日本大震災と、2カ所の被災地を見た木島氏。彼は、それぞれの被災者に「何が一番必要ですか?」と聞くと、2カ所とも、「お風呂に入りたい」という答えが圧倒的に多かったと語る。

 特に、石巻市では津波がもたらしたヘドロの臭いが屋根や窓、道路など至るところにこびりつき、衣服や人にも付着。悪臭を放った。水や食料が届いても、不衛生な環境が精神的なダメージを加速させた。

 そこで、木島氏が石巻市の被災者にナノミストバスを使用してもらうと、こんな声があがった。「食料などが色々届く中で、お風呂に入りたいなんて、これ以上は贅沢かと思って言えませんでした。久しぶりにお風呂に入れて嬉しいです」「段差がなく、私のような高齢(70代女性)でも安心して入ることができました」――。時には涙を流しながら感謝を述べる人もいたという。

 ナノミストバスは被災者の健康管理だけでなく、メンタルヘルス管理にも大きく貢献したようだ。

20220118140418-858dd3477a11a3f00c0ea669bcc83fb177f071c9.jpg
アインの木島信一氏

入浴は復興への活力となる

 木島氏は、今後の災害対策物資として、各自治体にナノミストバスを取り入れてもらうよう働きかけている。しかし、現状は入浴の優先順位は低いとされ、現状を知ってもらうにはまだまだ働きかける必要があると言う。

 「復興の活力として、お風呂の力は予想以上に大きいのです。震災を経験したからこそ、その重要性を伝えていきたいと考えています」と木島氏は熱を入れる。

 衛生が保てないストレスは、QOL(生活の質)を著しく下げる。水やガス、電気はもちろん必須だが、今は当たり前のように入れているお風呂も、生きていく上で欠かせないものだ。

 簡易浴槽装置であるナノミストバスは、折りたたみ式でコンパクトに収納も可能。都心の狭いスペースも有効活用できる。今後起こりうる震災の備えの一つとして、地域や企業での導入拡大が期待される。

取材・文/松永怜 写真提供:株式会社EINS