VRを使った最先端の防災訓練が、近未来の防災を変えていく!

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 東日本大震災発生から11年。自然災害の多い日本では、将来に備えて防災・減災の取り組みが重視されている。その中で現在、防災訓練VRが注目され活用が増えている。最先端の防災訓練で人々の意識はどう変わるのか、さらに国内外への影響についても探っていく。
多人数が同時に、火災や豪雨のVR映像を360度の迫力で体感し、防災訓練できる3D VRシアター「4DOH」

災害をVRで体験することで防災知識が自然と身に付く

 都市機能や住宅が集積する一方、災害リスクも高い首都・東京。東京都は、災害の被害を最小限に抑えるため「公助」はもちろん、自らの命は自らで守る「自助」や自分たちのまちは自分たちで守る「共助」を呼びかけ、災害対応力と連携の強化にも注力している。

 自助や共助の重要性を伝えるには防災訓練が不可欠だ。学校のグラウンドで消防講和を聞く古いイメージがあるかもしれないが、今、VR(ヴァーチャル リアリティ)を活用した防災訓練が注目され、活用機会が増加中だ。

 秋葉原に「防災研修ショールーム」を設ける田中電気株式会社では、VR映像制作の株式会社理経、3D VRシアター「4DOH(フォーディーオー)」開発・運用の株式会社ピー・ビーシステムズと協力し、VRゴーグルを使った「防災訓練VR」と「4DOHによる防災訓練」を販売・レンタルし、活用事例を増やしている。

 「防災訓練VR」は訓練を受ける人がVRゴーグルを装着し、目の前に広がる火災や地震のVR映像の中でコントローラーを使い、避難経路を判断しながら避難口へ進んでいく。姿勢を低くして煙から身を守ったり、大火や爆発にビックリしたりするなど、ついVRの世界にハマってしまう迫力がある。

 従来の防災訓練では伝えられなかった、火災時の灰色の煙と、より有毒な黒い煙もVR映像では表現が可能で、煙の色による避難の仕方も体験できる。また、土砂災害VRでは濁流がものすごい勢いで押し寄せ、VR映像ならではのリアリティを体感できる。

 パソコンとVRゴーグルがあればどこででも簡単に、1人から訓練できる点も「防災訓練VR」の利点。多くの人が集まれなくなったコロナ禍で引き合いが増え、活用の幅が広がったという。

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最大16名まで参加でき、360度の3D映像を体感できる3D VRシアター「4DOH」の外観

家族や友達とVR映像を体感! 「共助」を考える機会につながる

 360度3D VRシアター「4DOH」による防災訓練は全周を3D映像で囲まれ、サラウンド音響や床の振動で臨場感あふれる4DOHの中で、火災や豪雨を疑似体験し防災や避難法を学ぶ。

 参加者からは「土石流の映像は迫力があって驚きました」「実際の火災で、こんなに低いところまで煙が来るとは思いませんでした」など、リアリティのある防災訓練への評価が高い。

 VR映像の迫力もさることながら、複数名で体感できるため身近な人たちと「共助」を考える機会にもなっている。

 一口に「東京都」と言っても、地震被害を受けやすい場所、土砂災害の可能性がある場所など、エリアによって想定される災害や避難法は変わっていく。そのため今後はエリア別の防災VR映像を制作し、より地域にフォーカスした防災訓練の提供を考えている。

 また、これらの防災VR映像は英語、中国語、ベトナム語などの翻訳バージョンもあり、国内在住の外国人への防災訓練で使われている。近い将来、翻訳した防災VRを海外展開し、各国の防災訓練にも役立てたいという期待もある。

 地震や豪雨など自然災害が多い日本だからこそ生み出すことができた、最先端のVR防災訓練が、国内のみならず海外の人々に防災知識を伝えていくのかもしれない。

 東京都でも風水害の防災体験ができるVR動画「TOKYO VIRTUAL HAZARD -風水害-」を公開している。動画は河川の氾濫、土砂災害、高潮による氾濫の3種類あり、それぞれ被災体験と防災学習体験の2部構成。

 さらに、東京都ではDX(デジタルトランスフォーメーション)を危機管理に活用する取り組みを推進。インフラ運営にAIを用いて災害対応の迅速化を図るほか、道路や一時滞在施設の混雑状況をGPSで収集し、群衆雪崩の危険性の把握などを行う「帰宅困難者対策オペレーションシステム」の構築を進めている。

 デジタルツインを活用した水害シミュレーションの作成も予定。将来的な大水害に備え、3D都市モデル上で災害を疑似的に発生させ、浸水の進行速度や深さの変化、避難誘導などをシミュレートし、防災施策への反映を図る。ほかにも、離島への取り組みとして、各港にライブカメラを設置したり、災害時にドローンを使って水中の被害箇所を早期把握したりする予定だ。

 東京都では2022年度に首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直し、その結果を踏まえてより一層防災対策を強化していく。

TOKYO VIRTUAL HAZARD -風水害-
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/torikumi/1000217/1008164.html

取材・文/小野寺ふく実 写真提供/田中電気株式会社